天使のいいなり
「娘さんですが、身体的にも生活する能力も、何も問題ありません。ただ…、少し記憶のズレがみられるみたいで。話を聞いてると、娘さんの中では今日は8月29日みたいなんです。」



重い空気が病室に流れる。

みんな私を、はれ物に触れるかのような目で見る。
私はおかしくないよ。





「あの、家族以外の面会はダメですか?」


沈黙を破ったのは、紗英ちゃんだった。

紗英ちゃんが、若松先生に聞いてみた。



「意識も戻ったばっかで、少し疲れてるみたいだから。短時間でしたら構いませんよ。」



私の胸の鼓動が速くなる。

きっと瑞己が来るって思ったから。
瑞己が病室に入ってきて、「騙されてんのー。」とか言うんじゃないかな?

そして、みんなその光景を見て、笑うんだ。
大きく笑いすぎちゃって、看護師さんに怒られちゃうかも。


早く入って来て。
目尻をくしゃくしゃにさせて、私に笑いかけてよ。



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