愛しいキミへ
「一歳しか変わんなくても、雅樹はまだガキだよ。てか、急いでたとこ呼び止めて悪かったな。ほら、帰れ。」

とんっ
背中を押され二歩、足が前に出た。
悠兄の方を振り向くと、すでに俺に背を向けて歩き出していた。

何で沙菜と別れたのか、何で別れた理由を教えてくれないのか、俺にはわからなかった。
わからないのも俺がガキだからなのか・・・?
いや・・・ガキだったんだ。
この時、悠兄の言葉の奥にあった思いを理解することが出来なかったんだ。
出来ていたら・・・未来は変わっていたのかな──

日が沈みかけ、空がオレンジよりも黒の方が多くなっていた。
悠兄の背中を見送った後、ゆっくりとマンションに向かって歩き出した。


「…ただいまぁ」

悠兄のことで足止めしてて、めっちゃ沙菜を待たせてしまった。
怒ってるよな〜・・・
静かに恐る恐る部屋のドアを開けた。

「…沙菜?」

怒っている沙菜がいると思っていた。
けれど、部屋の中では俺のベッドに寄りかかり、小さく寝息をたてている沙菜がいた。

「待ちくたびれたのか…。」

怒られなくてほっとした。
でも、それ以上に沙菜がいる。
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