愛しいキミへ
がっかりしたような、安心したような、変な感じだった。

─ガタッ

急に沙菜が立ち上がり、帰り支度を始めた。

「沙菜?どうした?」
「─っごめん。用事思い出したから帰る。ありがとう。じゃあね!」

「おいっ!沙菜!?」

俺と悠兄の言葉に答えることもなく、慌ただしく部屋を出ていった。
わけが分からない様子の悠兄。

「悪い!悠兄、俺も帰るね!」
「…おぉ。じゃあな。」

不思議そうに俺を見送る。
俺は沙菜の後を追った。
一緒にいてやりたかった。
・・・俺を少しでも頼って欲しかった。


風吹き抜けるマンションの屋上。
そこに沙菜の姿があった。
立ったまま、金網をつかみ、遠くを見つめている後ろ姿が見えた。

「沙ぁ〜菜!用事って地元の景色鑑賞のことかよ?」

隣まで歩いて行き、金網に寄りかかる。
沙菜の頭を、くしゃくしゃっと撫でた。
俺の言葉に何も答えない。
泣いているかも…そう思っていたけど、沙菜は泣いていなかった。
ただ前を真っ直ぐと見つめていた。
何も出来ず、ただ隣にいることしか出来なかった。

どれくらいの時間、無言でいたのかわからない。

「…雅樹。」

突然、沙菜が真っ直ぐと前を見たまま、俺の名を呼んだ。
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