愛しいキミへ
「受け取らないんだろ?…じゃあ探すだけ無駄じゃん。」

感情のない声なのが自分でもわかる。
泣きそうな顔で沙菜が俺を見た。

「でも…。」
「…でもじゃねぇ。探して返されても、俺はいらねぇよ。」

ふつふつと沸き上がる感情。
もう押さえられない。

「いつまで悠兄のこと想い続ける気だよ!!いつになったらその指輪はずすんだよ!!」

言いたくても言えなかったこと。

「俺と付き合って、俺を想おうとしてくたことあった?悠兄を忘れようとしてくれてたことあった?俺の気持ちを考えてくれてた!?」

俺を見つめるだけで、なにも返事をしない沙菜に、言いたいことを言った。

買ったばかりだったシルバーのリング。
これは俺の気持ちそのものつもりだった。
それがどこかに行ってしまった。

俺の気持ちは受け取ってもらえないままなくなった。


ズキズキと心が痛む。
指輪がどこにいったかわからない。
でも、地面に落ちて傷がついたことは見なくてもわかる。

指輪に傷がついた瞬間──


──俺の心にも傷がついた。

もう取ることのでない傷
ずっと残ってしまう傷


痛い・・・
痛い・・・

感じたことのない痛みが俺の心を襲う。
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