愛しいキミへ
「…雅樹。帰る理由、正直に言え。」

いつもの明るく優しい、悠兄の姿はなかった。

「用事あるって言ったじゃん。」

ふいっ
顔をそらして、答える。
目を合わせてしまったら、心を読まれると思った。

「それが本当なら、俺の目を見ろ。…お前の嘘くらい、わかるんだよ。」

──さすが悠兄だな。
これ以上嘘ついたら、本気でキレられる・・・。
そんなことになったら──
2人のデートの雰囲気が最悪になる。
沙菜が悲しむ。

ぐっと手を握りしめ、はっきりした声で話す。

「悠兄こそ、正直になれば?俺がいるとデートの邪魔だろ。」

はぁ
溜め息をついて、下を向く。
その後に、しっかりと俺の目を見た。

「雅樹、何言ってんだよ。そんなことねぇよ。」
「そうだよ!雅樹いると楽しいよ!!」

ずっと黙って見ていた沙菜も口を出す。
2人が気をつかって、嘘をついているとは思えなかった。本当に俺がいても楽しいと思ってくれているはずだ。
でも、その言葉を信じることの出来ない自分がいるんだ。

「俺が邪魔に感じんだよ。…マジで帰るわ。」

止められないうちに、2人の前を去る。

「!待ってよ!!沙菜は、ここで待ってろ!」

後ろから悠兄の呼び止める声がした。
でも、止まったりしない。
この声を振り払いたかった。
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