愛しいキミへ
───キスをした

突然のことに俺は目を見開く。
近づいてきて、急に背伸びをされ、避ける余裕なんてなかった。

触れた唇が離れ、由香利の顔が目の前に見える。

「…ファーストキスは雅樹くんとしたかったの。」

頬を赤く染めて、由香利は俺から離れた。
自然と俺も赤くなる。

「突然ごめんね。こんな人のいるところで…でも!これで悔いはない!」

戸惑いながら辺りを見ると、色んな人が俺らを見ていた。
注目されてる~!!

「じゃあ…私行くね!」
「あ…あぁ。じゃあな。」
「私のこと可愛いって言ってくれてありがとう。…絶対に私と別れたこと後悔する日がくるんだから!」

由香利は最後まで笑顔で、改札の向こうへと行ってしまった。
姿が見えなくなるまで俺は見送った。
・・・一度も振り向くことなく、由香利の姿は見えなくなった。

俺を好きだと言ってくれた女の子。
どれだけ傷つけても、俺のそばにいたいと言ってくれた。
もう由香利に「好き」と言われなくなることを、少し寂しいと思っている俺・・・

「…気づかないだけで…好きだったのかな。」

そんなことをポツリと呟いたことは、誰にも言わない。

ありがとう──
俺に想われる幸せを教えてくれて

ありがとう───
最後に笑顔でいてくれて


「沙菜以外と…キスしちゃった…。」

これも俺の心の中にしまっておこうと決めて・・・駅を後にした。
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