愛しいキミへ
席に戻ると、またコーラを急いで飲む。
料理が来るまで出来るだけ、席にいないようにしようと考えての行動だった。

「いや~店内が暑かったから、めっちゃ喉渇いてるわ。もう一回取ってくるね。」

また席を離れようとしたが、手首を掴まれて止められる。
中津さんは見たことのない真剣な表情。

「待って。さすがに今日は誤魔化されないから。」
「…誤魔化すって何を?コーラ取って来たいんだけど…。」
「あとでも大丈夫でしょ。とりあえず座ってくれない?」

あまりにも真っ直ぐに見つめてくるから・・・なにも言えずに席に座り直した。
溶けかけた氷だけが残ったグラスをテーブルに置く。
カランッと冷たい音がした。

「藤川くんって私の気持ちをわかってて、いつも誤魔化してるでしょ?」
「…なに言ってるの?そんなつもりないけど。」
「嘘つくの下手だよね。最初は鈍感なのかと思ったけど、何度もされるとわかるよ。」
「……。」

バレていたと思っていなかった・・・。
否定も肯定も出来ずに黙りこむ。
何か言わないと、と考えてはいるが何も思い付かない。
隣の席にいるおばちゃん達のどうでもいい女子会の話ばかりが耳につく。

「今日も誤魔化されるの嫌だから、はっきり言うね。私は藤川くんが好きだよ。」

ざわざわとした店内ではっきりと言われた。
話が聞こえそうなところにいる人は、自分達の会話に忙しいみたいで俺らの会話なんて耳に入らない様子。

もう・・・誤魔化せない・・・か

人を傷つけるのが怖かったし、バイトへ行くのが気まずくなるのが嫌で、誤魔化し続けた。
告白を受けた今、はっきりと自分の気持ちを言葉で伝える。

「…誤魔化してて悪かった。でも俺は好きな人が──」
「お待たせしました。トマトと海老のパスタです。」

俺の言葉を遮るように、店員が注文した料理を持ってきた。
なんてタイミングだよ!!
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