愛しいキミへ
「ハァハァ…げほっ…ハァ…。」

たどり着いたのは・・・自分の住むマンションの下。
膝に手をつき、走って乱れた呼吸を整える。
寒い中を走ってきて、喉が痛い。
耳もキーンと痛みだす。
それなのに背中に汗が流れたのは、汗をかくほど必死に走ってきた証拠。

必死過ぎて気づかなかったが・・・止まったことで自分の体に冷たいものが降りかかっているのに気づいた。
空を見上げると、小さな白い雪がチラチラと降っていた。
辺りを見るとほんのりと積もってきている。

ホワイトクリスマスイヴ───
まるで二年前に戻ったかのような錯覚に落ちる。

楽しかった二年前。
隣にいて笑っていてくれていた沙菜。
抱きしめて、キスをして、幸せだった。
・・・そして・・・

ズキッと痛む心が「行くな」と止めているようで・・・足が進まず、マンションの前から動けない。

それでも「会いたい」という気持ちで傷を埋め、呼吸が落ち着いたところでマンションに入り、エレベーターに乗り込む。
行き先は───屋上

ポーンとエレベーターが屋上に着く。
久しぶりに見た屋上の扉。
最後に来た時より・・・錆び付いた気がする。

せっかくマンションの下で落ち着けた呼吸が、緊張で乱れだす。
心臓がバックバックして、まるで今の今まで走り続けていたようだ。


メールに待っている場所は書かれていない。
この扉の先に沙菜はいないかもしれない。

それでもこの場所であって欲しいと願いながら・・・扉を開けた───


ギィィィ
開かれた屋上への扉。
ブワッと強く冷たい風が吹き、目を細めた。
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