愛しいキミへ
「……隙ありっ!!」

心ここにあらずになっていた俺は、沙菜に鞄を奪われてしまった。

「おいっ!」
「自分の鞄ぐらい自分で持てるもんねー。」
べーっと俺に向かって舌を出し、先に道を歩き出した沙菜の後ろ姿を見つめる。

後ろ姿に俺は静かに訪ねる。


なぁ・・沙菜・・・
鞄持たせてくれないのも、俺を本当の彼氏として認めてくれてないからだろ?

いつになったら認めてくれる?
いつになったら・・・指輪はずしてくれる?

沙菜の好きな人は俺じゃない。

左手の薬指の指輪は俺があげた物じゃない。



「雅樹〜何してるの?早く帰ろうよ。」

また心ここにあらずになっていた俺は、沙菜に呼ばれて現実に戻ってくる。

沙菜にこの気持ちが伝わってしまわぬよう、笑顔で駆け寄る。

「悪い悪い。ぼーっとしてた。」
「雅樹ってたまにそうだよね。いつも何考えてるの?Hなことだったりして〜。」

コロコロと笑う沙菜。
その笑顔を見ると自分が選んだこの時間を正しかったんだって思える。

切なく二人の間で光る指輪に気付かないフリをして、笑い合いながら、マンションへの道を歩いた。
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