愛しいキミへ
知らなかった・・・
沙菜がそんな風に思っていたことも、悠兄との間に距離があったことも、全然知らなかった。

「悠ちゃんとのこと、正直に話せるの雅樹だけ。」

頼られていることが本当に嬉しかった。
でも、二人が上手くいっていないなんて相談には、戸惑うばかりでしかない。
上手くいってると思っていたから。

言っちゃいけない言葉が、頭をよぎる。

「沙菜の勘違いじゃない?悠兄が距離なんてあけるわけないじゃん。」
「でも…関係ないって…。そんなこと言われたら、悲しくって」

涙を溜める沙菜が愛しくて、抱きしめてしまいたくなる。
でも抱きしめはしない。
自分の理性を必死で抑える。

「さすがの悠兄も受験で疲れてたんだよ。受かった大学って、すげー難しいところじゃん。ちょっとした八つ当たりだろ。」
「そうなのかな?」
「きっとそうだよ。いつも大人な悠兄だから変に感じるだけ。今は沙菜が、大人にならなくちゃ。」

ぽんっ
頭に手を置き、優しく撫でる。
少しでも、沙菜の気持ちが落ち着くように、優しい笑顔を向けて。

「きっと、大丈夫だから。」

おれ自身に言い聞かせるように、言葉を繋ぐ。
──きっと大丈夫
この二人はきっと壊れたりしない

会った時から、不安でいっぱいだった表情が少し和らぐ。
服の袖で、溜まった涙を拭った。
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