愛しいキミへ
「…雅樹の気持ち、ビックリしたけど嬉しかった…。……本当に良いの?」
「なにが?」
「悠ちゃんのこと…忘れてないままで……本当に良いの?」
「…あぁ。俺が忘れさせる。…俺がそばにいたいんだ。」

少し間があった。
うるさいくらい心臓が波打つ。

「…わかった。…じゃあ…よろしくお願いします…。」

・・・声が出なかった。
嬉しくて、言いたいことがあって、自分でもどうすれば良いかわからなくて・・・声が出なかった。
──沙菜が俺の彼女になった

「雅樹?」
「…嬉しすぎて、やべぇー」

素直な気持ちを伝えると、電話越しに「くすっ」と笑い声が聞こえてきて、胸がきゅーっとなった。
可愛すぎて・・・好きすぎて・・・

「…抱きしめたい。」
「!?なに言ってるの!?」
「ごめん。ごめん。」

しばらく話をして、電話を切った。
沙菜と付き合ったことが信じられなくて、漫画っぽいけど頬をつねってみた。
ぎゅっとした痛みがあり、今が現実だって教えてくれた。

悠兄のこと忘れてなくても、これから忘れさせる。
そばにいられればそれで良い。
──このとき本当に思ったんだ。
この決断がどんなに辛いのかなんて考えもしないで・・・


春の雨の日。
二つの恋が終わりを告げて、一つの恋が始まった。
・・・始まったなんて言えないかもしれないけど・・・
俺の長年の片想い──初恋がやっと動き出した日だった。
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