愛しいキミへ
「沙菜は勉強しにきてるんだから、その辺にしてくれない?」
「…そうね。ごめんね沙菜ちゃん。」
「…いえ。」
「それじゃ部屋にいるから。あっ!お菓子とかはすぐに取りにいくわ。」

母さんの返事を待たずに、部屋へと沙菜を引き入れる。

バタン

部屋の扉を閉めた瞬間、沙菜の表情がほっとしたものになる。

「…ごめんな。母さん鈍くて…」

鈍感な母さんの変わりに謝る。
そんな俺を見て沙菜はくしゃっと笑い、首を横に振った。
こんな時でも、沙菜の笑顔を見るとドキッとしてしまう。

「おばさんに悪気ないのは分かってるもん。私は大丈夫。」
「…そっか。悪いな。じゃぁちょっと飲み物とお菓子とってくるわ。」

少し逃げるように部屋を出る。
ずっと一緒にいるから・・・沙菜の強がりはわかってしまうんだ。
強がらせる為に、そばにいるんじゃないのに。
だめだな・・・俺って・・・
深くため息をついてから、キッチンへと向かう。

その頃、部屋の中で一人になった沙菜に笑顔はなかった。
雅樹の思った通り、大丈夫なんかじゃなかった。
無理をして、大丈夫な嘘をついていた。
震える唇に力をいれて泣かないように・・・
雅樹が戻って来たら、また笑えるように・・・
強がる準備をしていた。

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