彼と彼女
「ってか先生、ベニヤ板普通に痛い。」

「当たり前だ、ちゃんと狙って叩いたからな。」

「暴力反対ー。」

「おまえなぁ。」

呆れたように先生はあたしを見下ろす。ため息をついて横の椅子を引いた。
あたしの目の前には彫りかけのベニヤ板と、投げ出された彫刻刀。先が平たくて四角い奴。これで彫れっていう意味がわからないし。

「…だって苦手なんだもん。」

「鉛筆握らせたらちゃんと描けるのになぁ。なんでだ?」

「あたしに聞くな。」

「なんだその口の利き方は。」

「あたしに聞かないでくださーい。」

つーんとそっぽを向く。先生は疲れた顔をする。あたしは扱いにくい生徒なんだろうなって思ったら、ちょっとだけ愉快。だってそんなの知らないし。

「先生はなんで教師になろうと思ったの。」

そろそろ怒られそうなので、平刀をケースに戻して丸刀で背景を慎重に彫りながら話をする。

「なんでってそりゃぁ、なりたかったからだよ。」

「画家とか芸術家とかには興味なかったの?こんなライオン創り出せる才能持ってるのに。」

彫っている板の横に置いてもらったライオンの版画に再び目をやる。風になびいているように見える毛並みとか、鋭い目とか。本当に動き出しそうだ。
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