彼と彼女
椅子を引かないで立ち上がると、がたりと音がして椅子が移動する。

「しゃあねぇな。明日も来れるか?」

「えー。明日は見たいドラマの再放送が」

「お前、美術で成績欠点で補習とか馬鹿みたいなことしたくないだろ?」

「えー。先生のが嫌なんでしょ。」

「いいからほら、さっさと帰れ。俺もここ片したら帰るから。」

「え、一人でこんなとこから帰すの?可愛い生徒を?もう廊下暗いよ?」

「わかった。わかったからちょっと待っとけ。校門までだぞ?」

「はーい。」

先生はなんだかんだで優しいのだ。一緒に帰る約束をしたことで(校門までだが)、一気に上機嫌になるあたし。準備室に引っ込んでしまった先生に声をかける。

「ね、先生。」

彫った後の木屑を小箒で集めて、塵取りに入れる。

「なんだ」

先生は先生で準備室で色々用事をしているみたいだ。

「このライオンの版画摺った原版ってまだある?」

「それか?どっかにあると思うけど。」

「あたしがこの課題終わったら1枚ほしいな。」
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