不協和音は愛の始まり
一人でそんな事を考えていたら、合唱部の練習で指揮のタイミングとずれて皆に迷惑をかけてしまった。

「本田先生、体調悪いの?」
大人の顔色に敏感な生徒には、普段と違って見えたようだ。
「大丈夫よ、ちょっと風邪気味みたい」
さっきから頭が痛く、あながち嘘でもないな…と思いながら返事して、作り笑いで微笑んだ。
心配そうな視線の中に、年の離れた私の弟、知也を見つけた。

「知也、ちょっと」
休憩時間に呼びつける。
「なに、ねーちゃん」
「今日私も帰るから、先に帰ったらお母さんに言っといて」
「そんなに具合悪いの?」
「そうじゃないけど…いいでしょ、自分の家だもん」
私が口を尖らせて言うと、
「やだよ、パソコン独占できないもん。せっかく一人部屋だったのに」
と弟もふざけて言って、二人で笑った。

「ねーちゃん来たらパソコン教えてもらおうと思ってたんだ、友達にメールしたらファイルの添付が上手くいかなくて」
「じゃあ後で見てみるね」

自然に思いやる事が出来て、笑い合える。
家族っていいな、と思った。
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