不協和音は愛の始まり
その現実味のない絵のように整った、真っ赤な口紅の光る唇が開いて私に言った。

「ちょっと、あなた。荷物運んでくれる?」
白い手袋に包まれた細い指が指す先は、ハイヤーの後ろのトランク。
「あ、はい」

私は思わず返事をして、清楚で控え目なイメージだった川畑のお母さんのギャップに内心クラクラしながら、カツンカツンと音をたてて石畳を歩く川畑のお母さんを追って、重い荷物を引きずらないように苦労しながら川畑邸へ入った。
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