不協和音は愛の始まり
「川畑さん…お酒飲むんですね」
「あぁ…滅多に飲まないんだが…何時だ」
川畑は舌打ちをしながらテーブルの上に手を伸ばし、ワイングラスをかすめて倒しそうになりながら、時計を探し当てた。

『午前―8時―23分』
目が見えなくてもわかるように、押すと音声が出るタイプの時計だ。

川畑は時計の音に頷き、
「もう行かなければならないな」
そう言いながらも、だるくて立つ気がしないらしく、頭を押さえてソファーにもたれた。
「…大丈夫ですか?」
「恭子の作った味噌汁でも飲めば元気が出そうだが…そんな時間ないな」
川畑は皮肉のような口調で言って、自分でクスッと笑ったけれど、私はちょっと冗談を言うような気にはなれなかった。
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