ひとつ屋根のした?
突然のこと過ぎて、後ずさることも出来ず、手を捕まれてしまった。易々と。
「ひっ」

途端、頭が鈍器で殴られたように痛み出す。
もっと、大きな悲鳴が出るかと思ったのに、口から出たのは、限りなく息に近い、か細い悲鳴だった。

嫌、嫌、嫌だ。触らないで。



『なあ、カンナ。』
目の前の男が、『アイツ』と株って見えた。
こんなところに居るわけがないのに。


嫌だ。嫌。思い出したくない。



「離せ。」
その声で、はっと思考の渦から掬い上げられる。
木綿が男の手を掴んでいた。
いつもより、数段低い声に、皺のよった眉。
いつもの木綿とはうって変わって、今の木綿は、どこへ出してもおかしくない立派な男だった。


「そんなにかわいいのに意外に力強いんだね。」

へらへらと男が木綿に笑いかける。



徐々に頭が冴えてくる。
泥々と白みがかった記憶から抜け出して、冷静な目で、今の状況を見つめる。




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