ひとつ屋根のした?
初めて触れる、木綿の手は暖かかった。
さっきの男に触れられたときは、嫌悪感しか抱かなかったが、今は不思議と嫌悪感などない。
このまま、手を繋いでいたい。

扉が係員によって閉じられて、静かに観覧車は動く。まるで、永遠にそうしているかのように。
さっきまで、歩いていた場所がどんどん小さくなっていく。

「日野先輩に悪いかな。」
向かいの席に座った木綿がつぶやく。
意味が分からない。何で、はるちゃんに悪いと思うの?
「何が?」
「だって、彼女が男と暮らしている上にゴールデンウィークにそいつとSWLに二人で行ってる。」
これは完璧に誤解されると木綿は付け足す。

ああ、そうか。
はるちゃん、は私の彼氏だった。
『なあ、カンナ。』
また、視界にあいつが出てくる。もう、見たくないのに。
まだ、私は囚われているのだ。
こんなに遠くまで来ても。今もなお。

でも、木綿になら、打ち明けても良いんじゃないか。そこまで、許しても大丈夫なんじゃないか。
でも、傷つくかもしれない。また、泣く事になるのかも。

私が泣くとはるちゃんは傷つく。誰よりも優しい彼は、私が泣くと昔から、自分のことのように悲しんでくれる。


分かってる。はるちゃんのことは言い訳。自分が傷つきたくないがための言い訳。
木綿なら大丈夫。
だって、この人は、男でも女でもない。
さっきの感情はただの勘違い。
だから大丈夫。

深呼吸をして、目の前にいる木綿を見つめる。

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