林檎と蜂蜜
この学校の図書室は広い。図書室っていうか、図書館みたいな。美女と野獣の映画に出て来るみたいに、天井は高くて、壁一面に本棚があって、上のほうの本も生徒が自分で取れるようにスライドと手摺りのついた梯子がある。ステップも太いから、踏み外すことはまずなくて安心だ。
図書室へ入ると、猛はちょうど本を取ろうと梯子を上っているところだった。
彼のその脇には既に2冊の本が抱えられている。
「猛ぃー…」
下から声をかける。彼は目当ての本を手に入れてから私のほうを向いた。
「珍し。何してんのこんなとこで。」
銀縁鏡の奥の、色素が薄い茶色が見開かれる。
「聞いてよっ!隆司がね、」
「待って待って、先降りるから」
3冊目の本も左の脇に2冊の本と同様に抱えて、猛は身軽に梯子から飛び降りる。3メートルはある高さからストン、と着地する彼に私は驚くしかなかった。
「上条君、危ないから止めなさいって言ってるでしょ?」
「あ、ごめんなさい。つい癖で。」
司書が通り掛かりに注意する。猛のこのような行動は、どうやら日常茶飯事のようだ。猛が気まずそうに笑うと司書はぶつぶつ文句を言いながらその場を離れてった。
「で、どうしたの。」