林檎と蜂蜜
猛は鞄の横に3冊の本を置いて、私に座るように椅子を引いて促した。冷めた目頭の熱が、再び戻って涙を生産する。
「隆司が、彼女作ったの…」
「え、ほんとに?嘘だー」
あはは、と脳天気に笑う猛。絶対有り得ないって自信があるみたいに。猛が笑うのを見て、私の気分はますます沈下する。
「だって、だって隆司本人がそう言ってたもん…。」
「だから今日はこっちにきたの。」
「……だって。」
猛はふわりと微笑んだ。隆司への気持ちを知ってるのは、猛だけなのだ。隆司も猛も、女の子に人気がある。仲が良いというだけで数人組のグループに呼び出されたりするのだ。本気の片思いなんてばれたら集団いじめに繋がりかねない。
「隆司は、うーんと、多分だけどね?」
猛が私にタオルを手渡す。部活もしてないのに、なんで大きいタオル持ってるんだろう。でも決壊した涙をどうにかするには、すごく有り難かった。
「多分、何?」
落ち着いてきた私は猛に聞き返す。猛は私の横の椅子に腰掛け、肘をついて私を見つめている。