林檎と蜂蜜
彼女は無表情で私に座るように勧めて、その向かいに座った。
「あたしね、昨日高野君に告ったの。」
高野君、とは隆司のことだ。学年には高野が2人いるけど、もう1人は私とまったく関わりのない人だ。「高野君に告白した」話を私にするんだったら、隆司のことに決まってる。
「彼、こう言ったわ。ほっとけない奴が居るから、付き合えないって。それって、あなたのことよね?篠崎さん。」
…小川さんは勘違いしてるみたい。私は首を横に振った。
「違うよ、だって隆司昨日、彼女作る気だって言ってたし。」
自分の言葉で傷をえぐることになるとは思わなかった。重い胸中のわだかまりを外に排出するみたいに、長いため息をついた。
「上条君が好きなんだったら、高野君を譲ってよ。」
「…へ?」
思わず小川さんを凝視する。猛が何?小川さんは俯いて、まくし立てるみたいに言葉を続ける。
「いいでしょ?だってあなたには、もう上条君みたいな彼氏が居るんだから。それなのに高野君まで独り占めなんて、おかしいもの。あたし、高野君に告白したときに…、見たの。」