林檎と蜂蜜
「あなた、昨日上条君と仲よさ気に手まで繋いで帰ってたものね。それなのに高野君が好きだなんて、言えるわけないよね?」
小川さんの自信に満ちた言い分に辟易してしまう。なんて言い返したらいいのかわからない。
その時、割と勢いよく出入口が音を立てて開いた。
「、隆司…」
「た、高野君っ!おはよう。」
なんでこんなとこに?
驚いた私は、思わず小川さんに目を向けた。はにかみながら隆司に歩み寄る彼女。
「どうしたの急に?」
彼女が呼んだわけじゃないみたい。
「あー…、と。梨紗の声がしたからさ。悪い、小川。俺こいつに用あるから返してくれる?」
一応ギモンケイ。でもそう言い放つ隆司は既に私の二の腕を掴んでいて、彼女に有無を言わせない。
「え…、あ、うん。」
隆司の予想外の行動に顔に陰を落とす小川さん。シュン、となる彼女は、やっぱり女の子らしかった。
「さんきゅ。梨紗行くぞ」
隆司は私を掴んだままつかつかと歩き出した。
まだ小川さんに何も言ってない、言えてないのに!
ドアから出たとき、一瞬だけ目があった彼女の顔は、怖いくらい無表情だった。
顔のいい人は怒ると迫力があると聞いたことがある。どうやら私は彼女の機嫌を確実に損ねてしまったようだ。
こんなに客観的に脳が判断したのは、もっと気になることが目の前にあったからだろう。