林檎と蜂蜜
何を言われるんだろう。昨日のことだとしたら…、私の気持ちは、ばれてしまったのだろうか?妙な焦燥感に駆られる。隆司は私を振り返ることもなく、腕を掴んだまま(私が歩きにくいという素振りを見せたら持ち替えてくれた)、階段を上がっていく。
自身の教室がある階を通り過ぎるときに、猛の姿を見た気がした。昨日は悪いことしたな。なんだかんだで落ち込んだら猛の所へと足が向かうのは、もう習慣になってしまっている。
4階まで上りきった隆司は、やっと私の手を離し、振り向いた。4階の天上は高い。天上に窓がついていて、日当たりがすごくいい。
見上げた空は眩しかった。
「昨日さ、やっぱ猛のとこに行ったわけ。」
隆司が眉を寄せて壁にもたれかかる。
「…うん。なんで?」
「いや…、見えたから。帰るとこ。」
確かに私は隆司にそう告げたし、隆司も知ってるはず。
「あの…さ、」
気まずそうに頭を掻く隆司。
「…何?」
関係を壊したくない。私の隆司への気持ちは、まだ不安定だ。まだ隆司には知られたくない。
「やっぱ、怒ってんのか。」
おずおずと視線を合わせてくる隆司。
「は、え?」
怒ってる?って、誰が。私が?
「なんで?」
「いや、だから昨日。帰れないって放課後ぎりぎりに言ったから…。」
しどろもどろになる隆司と、まったく話が見えない私。
「いや、だから、なんでそれで私が怒るの。」
「え、怒ってんじゃねぇの?昨日最後に見たとき、すっげえ業とらしく笑って教室でてったし。猛にも言われた。」
あぁ、そういうことか…。