来る来る廻る
普通に普通に…が…俺の趣味は…少々普通ではなかった。
男のくせにと思われるが…料理が好きだった。
昔型厳格、亭主関白の親父は、男が台所に立つ事などもっての外、台所は女の場所、男が足を踏み入れる場ではないと、頑なに信じていた。
その為、子供の頃から、台所ではチョロチョロ出来なかった。
家の中で、台所は俺にとって、異国のような所……。
美味しい物が次々と生み出される場所……。
甘く、辛く、冷たく、温かく…憧れの国。
たった一人いる姉が、いつも母親と仲良く料理している光景を、遠くから眺めていた。
なぜに…俺は…女に生まれてこなかったんだろう……?
俺も作りたかった。
工作よりも、百倍楽しいと思える料理と言う作業。
肉屋の豚肉が…魚屋の鰹が…八百屋のキャベツが…俺にとっては宝石に値した。
我が男に生まれた事を憎らしいと思いながら…料理の楽しみ方は、口に入れ味を噛み締めるだけだった。
頭の中で色々想像を巡らした。
それは材料、調理方法、調味料の加減など、家族にばれてはいけない。
メモとる事もなく、俺は、頭の中だけで料理手帳を作っていった。