来る来る廻る


逃げ道はなくなった。

窮地の先は袋小路だった。

「ちょっと今日は飲み過ぎて、歌えないわ、私」

「そんなの駄目ですよねぇ皆、店長の歌聞きたいよね」

「聞きたぁ~い」

「店長!店長!」

皆の手拍子が始まった。

とその時、次の番を待っていた佐々木が、私の手からスッとリモコンを奪い取った。

「俺が代わりに二曲歌わしてくれる?」

「?!?」

取り敢えず助かった。

スーパーマンが袋小路に降り立ち、私を拾い上げた。

皆のつまらなさそうな顔…特に野田の顔は格別だった。

佐々木の歌は完璧~


顔も甘けりゃ声も甘い。

私を含めた女5名は、目と耳と体が釘付け状態になった。

次から次へと、休む間なく流れるミュージック……♪

そんな時、横にいる佐々木が何かを囁いた。

「?」

聞こえなかった。

何て言ったの?

私は耳を佐々木に傾け、リピートしてほしい仕草を見せた。

「店長、コンタクトにした方がいいっすよ。せっかく綺麗な目をしているのに勿体ない」

耳に甘味が充満し、体にもまわり、甘味が溢れ出した。

甘さが熱さに変わり、全身が火照ってきた。

   熱いよ……。


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