来る来る廻る
3月3日を過ぎると、雛人形を早く片付けなくては、娘の婚期が遅れると言った迷信を、母は知らなかったのだろうか、それとも信じていなかったのだろうか、もしくは敢えて、嫁に出したくなかったのだろうか。

後残る一つは、ただの不精?

一度聞こう聞こうと思いながら、聞きそびれてしまった。

もう聞く事は一生出来ない。

私は未だ、一度も結婚をした事がない。

と言うよりも、それ以前に、男性とお付き合いした事さえなかった。

♪しょ、しょ、しょじょじ♪ 処女寺の庭は♪ つんつん月夜だ、皆出て来い来い来い♪

たぬき達にお囃子で冷やかされそうなほど、恥ずかしい事にも、いい歳をした三十路過ぎの私は、滑稽な処女だった。


母は、近くの町工場で働いていた。

何の特技も持たなかった彼女は、部品の点検と言う職種を20年以上続けた。

工場内では古株の古株、点検を任せたら、母の右に出る者はいなかったらしい。

そぅ、母はこの工場の女王だった。

朝9時から5時までの勤務、毎年皆勤賞を頂く、典型的まじめ人間のお手本だった。

仕事帰りに買い物をして、母の帰宅は6時過ぎ。
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