来る来る廻る

居酒屋の御愛想は私が払った。

歳上だし、上司だし、家賃稼ぎにバイトできているし、当然の事だと思った。

二件目は、佐々木の連れがバイトしているショットバーに連れて行かれた。

見るも飲むも初めてのカクテルを数杯飲み、横を見た…そこには、恋焦がれた佐々木がいる、うん、かっこいい~。

私は、夢心地の世界に身を置いた。

この今の心境を、言葉で何と表現しよう、フワフワ綿雲の上にいる、私はお姫様……。

この店の代金も、私が払った。二人とも、それが当然の事のように…。

「店長、今日はごちになりました」

「どういたしまして、じゃ、明日も頑張りましょう」

帰りかけた私の背中を、佐々木が呼び止めた。

「店長!」

振り返ると、目の前に佐々木が近付いて来ていた。

「また、飲みにいきませんか?」

「…えぇ、光栄だわ」

と、佐々木の顔が接近してきた。

唇が…佐々木の唇が…私の頬にそっと触れた。

「じゃ、店長、また明日、店で」

と、片手を上げ、佐々木は去って行った。

半径1メートルに及ぶ甘い円の中…私は立ち尽くしたまま、そこから中々抜け出せずにいた、ずっと……。


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