来る来る廻る

佐々木の甘い歌で…私は、心の芯まで酔った。

「店長は、歌苦手なんですか」

「恥ずかしい話なんだけど、私…人前で歌った経験ないのよ」

「そうなんだ、でも知ってる曲、一曲ぐらいならある筈だよね?」

高校時代…メガトン時代…真っ盛りの頃にヒットした曲、佐々木に促されるままに、一緒に歌ってみた。

「全然、大丈夫じゃん!一人でも充分、人前で全然大丈夫だよ、自信持たなきゃ」

興奮冷めやらず、赤面した顔を見られるが嫌で、私は下を向いていた。

そして、顔を上げた時…佐々木の唇が私の唇に…重なった。

舌と名付けられた臓器が、口の中に入ってきた。

どう受け止めればいいのかわからず…私は、自分舌を奥に…奥に…引っ込めた。

暫くして、佐々木の舌は出て行った。

「ごめん…」

私が嫌がっていると思って、勘違いされたかも知れない…違うの…違うのよ…キスも初体験だなんてとても言えない…。

これがディープキス……。

三回目のデート…どこに行きたい? と聞かれ、佐々木君に任せるわ、と言った。

着いた店は、一流ホテルの鉄板焼。


赤ワイン片手に、とろけるような肉で舌鼓。

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