来る来る廻る
どう見ても、だれが見ても、お袋と俺は、親子に見えなかった。
体質からか、いくら食べても太る事のない、スリム、長身のこの体、100人中99人が認めるであろう、このビジュアル系のマスク……。
親父ありがとうよ。
あんたが、お袋の上に乗り、一瞬に得た快楽のお陰で、俺は最高級の着ぐるみで、世の中を渡っていける。
俺の育った家は、夜のネオン街を少し離れた、路地裏の通りにあった。
焼き鳥屋、居酒屋、バー、廃業された店などが密集された細い通り。
アルコールとゲロとアンモニア、おまけに残飯がミックスされた臭いが充満し、一度も洗った事がないと思われる、薄汚れたゴミバケツ…新品の時は綺麗な水色をしていたのだろう。
通りが細い為、そのバケツ達に体が触れないよう、俺はいつも気を付けながら、その臭い通りを縫うようにして歩いていた。
お袋は、スナック「愛」を一人で経営していた。
二階は、俺達母子が生活する場、とは言っても、6畳と4畳半の二間しかない、辛うじて小さな風呂がついていたものの、キッチンもない、食事は、朝、夕、いつも店の中で済ませた。