来る来る廻る
子供の頃、朝起きたら、横でお袋が口を開け眠っている。
起こさないように、そおっと着替え、下に降りる。
散らかった店内で、昨日の客の残り物、おかきやピーナッツ、かちかちになったチーズが俺の朝ご飯だった。
営業時間、カラオケの振動が二階を震わせた。
この振動が、俺の子守唄……。
静かだと、反って不安で眠れない。
現に、母は店を抜け出し、客とどこかに消える事がよくあった。
幼かった俺は、下が静かになると、怖さと寂しさと不安の中で、母の帰りを待った。
そのせいか、大人になった今でも、静かな空気は俺をびびらせる。
夜中、トイレに行きたくなり目が覚めた時の事だった。
下は静まりかえっていた。
横を見たが母はいない。
また、どこかに行きやがったな…。
トイレは下にしかなかったので、階段を降りて行くと……母の泣く声が聞こえてきた。
どうしたんだよ?
小走りに降りて行くと、客が母の上に乗り喧嘩していた。
取っ組み合いして、倒された?
「やめろぉ!!!」
俺は、ありったけの大きな声を出した。