来る来る廻る
待ち合わせ時間に、私は遅れた事がなかった。
いつも先に着いて待っている。

佐々木は、5分、10分遅れる事が普通になっていた。

その日、私はわざと、約束より15分も遅れて行った。

こんな細やかな抵抗も、私にとっては命がけの事。

寿司屋のカウンター、奥の席で、佐々木はビールを飲んでいた。

もう適当に注文して、箸も動かしているようだった。

横にそっと座った私は、佐々木の顔色を伺う。

「よっ!ここ久しぶりだよな」

佐々木は、やけに明るかった。

私は、ホッと安心した。

日本酒を頼んだ…それは、今日はゆっくりしたいと言う、私のセリフ代わり。

「お母さん、どう、大丈夫なの?」

「あぁ、何とか…もう歳だしね」

「でも、ちゃんと後悔しないように、親孝行しないとね。あれもしてあげたかった、これもしてあげたかったって…思っても、私みたいに…もういないと…取り返しつかない、どうしようもないもん…」

「あぁ、そうだね」


1時間ばかりが過ぎた。

佐々木は…何故かそわそわしてる…何かを隠してる…私にはわかるの…あなたが好きだから……。

気付かない振りして、私は話し出す……。


< 99 / 267 >

この作品をシェア

pagetop