やくざな主人と生意気ペット
「お前さ、ほんとに覚えてないわけ」
「何を」
「何をって」
神無月さんはさっきの何倍も面倒くさそうな顔をした。
そしてもっと面倒くさそうに、溜め息を一つ。
「もういいよ」
「何が。意味わかりません」
「面倒くさくなった」
「残念ながらあたしも」
「あーもう、お前黙ってろ」
「無理です。教えてもらわないと、親のこと」
そうだ、本題はそれだった。
神無月さんは意図的に話題を変えたんだ。
そんなに言い辛いのか。
ならあたしの仮定を言ってやろうか。
「神無月さん、大丈夫ですよ、あたし。大体わかります。仕方ないですよ、仕事だったんでしょう?」
神無月さんの肩がぴくっと動いた。
あたし達は互いに背中を向けてたから、正しくは『気配』なんだけど。
「悪かった」
「…ばかじゃないの、やくざが殺した人間の娘に謝ってるとかマジうけるよ」
「悪かった」
「悪いと思うなら辞めりゃいーじゃん、やくざ」
嘘。軽い冗談で言ってみただけ。
なのに神無月さんは何も言わない。
「何、本気にしてんですか。あのね、神無月さんはやくざしか向いてないの、天職。辞めたら生きてけなくなりますよ」
早口でまくし立てた。
これは本当。嘘じゃない。
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