やくざな主人と生意気ペット
 
その日以降、こはるはそのアーティストにすっかりハマっていた。

「神無月さんも聴いてみて下さいよ」なんて言われて俺も何度か聴いてみたが、イマイチ魅力がわからない。

こはる曰わく、ロックなのにどこか懐かしいメロディーと切ない歌声がいいらしい。


「お前ほんと好きだな」


今日も朝からずっと例のアーティストの曲を聴いている。


「あ、すみません、構ってあげますよ」


そう言って面倒くさそうにイヤホンを外す山田を拳で殴りたい衝動に駆られる自分を必死に抑える。


「ほんと好きだな」

「さっきも聞きましたよ。あ、もしかして嫉妬してんすか?」


にこにこ笑うな。
抑えた殺意が沸き上がるだろうが。


「一番は神無月さんですよ、なんて言われたりしたいすか?えへへへー」

なんだこいつ。
酔ってんのか?
それとも素面のただのイタい女なのか?


「てことで、もう大丈夫ですからねー、神無月さん」

「は?何が」

「心配してくれてたんでしょ?あたしの究極的な無関心っぷりを」

「…誰が心配なんざするかよ」

「アスカさんに聞きました」


そうやってニヤニヤ笑われるとムカつくんだってば。
どんだけ心配だったかわかってんのか。
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