「私、先生の事が大好きです…」
「へぇ…ってことは、先生も『魔王』が好きなんですか?」
「あの物悲しい感じが好きでね」
図書館の近くの公園に移動して、いつのまにか私と先生は、ゲーテの話に夢中になっていた。なんだかすごく、楽しい。
「あの、父親とのやりとりが好きなんですよ!」
「ああ、あれはいいよな。父親の言葉と、息子とのズレ、そして消える息子」
「そうそう、ふ…っと消えちゃう感じがいいんですよー」
ポーンポーン…
そんな時、公園の時計から、音楽が聞こえた。
「っと…もう、6時か。そろそろ帰らないと親御さん、心配するんじゃないか」
「あ…そう、ですね」
「悪いな、なんか、引き止めたみたいになって…そうだ、送っていこうか」
「え…、いや、悪いですよ。それに、呼び止めちゃったのは私の方です」
「いやいや、先生がこんなに夢中になって喋っちゃったのが悪いんだ。お前は何年教師やってんだって話」
と、先生は笑う。
遠慮したものの、私はちょっぴり、嬉しかった。
もうちょっと、先生と一緒にいられるんだ。