夜の街から
「俺は―――――……」
やっと落ち着いて、冷静に判断出来る様になったと思ったら、
「さっき“貴女”って言ったよね…?」
大事な事を思い出した。
“あなた”でも“貴方”でもなくて、“貴女”。
俺が女の子だって知ってるの?
明かした覚えは無い。
今の今まで(泣く前までだけど)女らしい素振りした記憶なんてさらさら無い。
「どこからどう見たって女の子じゃん。何があって男装なんてしてるのかさっぱり分からないけど、他の人の目は誤魔化せても俺は無理だったね。」
騙せる自信はかなりあった。
そこら辺の男より、俺の方がずっとカッコいい。
だから、まさか見破ってる人が居るなんて考えもしなかった。
「なら、話しやすい。何でこんな事をしてるかって言うと―――…」
葵子にあってからの事を、一つ残らず話した。
一つ思い出す度に涙が零れた。
でも、何だか零れる度に心が清んで行くのが感じられた。
全然俺の事を知らない他人(ひと)だから、話せたのかもしれない。
知っている他人だったらきっとプライドが邪魔してさらけ出せ無かったから。