夜の街から
自棄に息が苦しい。
帯がキツいのだろうか。

いや、今更それは無いと思う。
だから多分あたしの身体は緊張してるんだ。
頭は冷静だけど。


スッと開いた襖の向こう。
スーツ姿が自棄に似合うその男。
オールバックできちんと固めた髪に崩れそうにない硬い表情。


「あッッ……」

それ以外何も出てこなかった。
目を見開いて相手を凝視しながら、必死に難く(かたく)動かない足を何とかしようとして……

そんなあたしを母さんは不思議そうに眺め、


「すみません、極度のあがり症で。」

そうフォローしながらあたしの右手をとり、彼の目の前まで引くと座らせた。


かなり、有り難かった。
放って置かれでもしたらあたしはきっと、ずっとそのままだったに違いない。

             ・・
母さんと彼の父親らしき人は黒く微笑みながら談笑していた。
とても上品に。


< 160 / 227 >

この作品をシェア

pagetop