夜の街から

たった数メートル離れているだけなのに、目の前にいる彼はどこか遠くに行ってしまったかの様にあたしの目には映った。

突然止まったあたしに稀癒は怪訝そうな視線を向け、次にあたしの視線の先にいる彼に向いたのが、視界の端で確認出来た。
重い沈黙を破ったのはその沈黙を作った張本人だった。


「話が、あるんだ。」

「どうしたの?急に。最近忙しそうな様子だったじゃない。」

「俺にも仕事があるからねー。」

最初の一言目は圧力があった。
でも二言目はいつもの壱貴だった。


「…仕事してたんだ。」

「当たり前じゃーん。酷いなあ。」

と、ケタケタと笑う。
何だかさっきの空気が嘘みたいで、ふッと、気を緩めた。


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