ページェント・イブ ~エリー My Love~【長編】
シゲさんが、グラスを傾け、底を覗く。
俺には少しばかりのモヒートと、浮力のない氷と、ミントの葉ぐらいしか見えないけど。

そこから、シゲさんなりの見解が見えるんだろうな………。

「―――――衣理ちゃんが働かないと、彼女の家は結構大変でしょう?お屋敷のような豪邸に住んでる水嶋家とでは、育った環境も、食べてきたものも、見てきたものも、金銭感覚も全っ然、違うわけですよね」

「………確かに………」

「でも、彼女は水嶋の事がすごく好きだったんでしょうね」

シゲさんが、真っ直ぐな瞳で、俺を見つめる。
思わず、その瞳を見て、ドキッ。

「………どうして、です、か?」

………疚(やま)しいことも何もないのに、何故かフリーズ。

「―――――考えてもご覧なさい。水嶋とのお付き合いが遊びだったら、彼女があれこれ悩む必要がないじゃないですか」

「………」

「水嶋が好きだけど、自分とは全く違った環境で育ってきた相手と、もしかしたら一緒になるかもしれないって考えた時、うまくやっていく自信がない………って思った――――どうかな?」


この人―――――。

何で?

シゲさん、エリにあったことないはずなのに。

まるで、エリの気持ちを代弁してるような。

すげぇ。

シゲさんが一瞬、神に見えた………。
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