ページェント・イブ ~エリー My Love~【長編】


恐怖感に戦(おのの)きながら俯き加減で歩いていると、肩に掛けていたアディダスのスポーツバッグが、グイッと強く後ろに引っ張られる。


「あたしの切符もあるのに、そのまま改札潜(くぐ)らないでくれる?」


聞き慣れた声。

勝ち気な言いっぷり。

振り返られなくても、相手が解る。


「………久しぶり、茉莉子」


ゆっくりと、振り返る俺。
そこには、少女のようなキラキラした瞳で、彼女が立っていた。


少し痩せた気がするが…。


「うん………久しぶり。あれ?ノブ、随分…雰囲気変わった。………髪型もカラーも落ち着いてて。それにメガネなんてかけてるし。どうしたの?」


そんなのお構いなしに、いつものマイペースな彼女。
俺の顔を、多方向から見てはクスクスっと微笑う。


「………いや…別にどうもしないよ」

「そっか………来年の春には“センセ”、だもんね。変なカッコは出来ないってワケか」

「ま。そーゆーことにしといて」


通り過ぎていく人たちが、茉莉子の顔を見ては恍惚の溜息を漏らしていく。

それもそのはず。

彼女の透き通る白い肌、整った顔立ち、モデルのようなスラリとしたスタイル。
周りから見たら、多分。多分だけど、俺と茉莉子は恋人同士に見えるだろう。


内情は恋人どころか、セックスなし、キスなし、手すらロクに繋いだことなし(倒れたときは流石に抱きかかえて病院へ行ったが…)。


そんな俺たちが、初めての旅に出る。


─────期待しちゃって、いいんだろうか?


複雑な思いを胸に、俺たちは改札を潜る。


東京駅発、12:00の新幹線に乗り、一路仙台へと向かった。





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