ページェント・イブ ~エリー My Love~【長編】
「………ぷっ………あはははははは」
「心配かけてゴメン………ノブ、ありがとね。アタシたちはもう、ただの同級生だもんね………」
そうだよ。
アタシたち、もう何もないんだから。
きっと、これからも………。
「そ。そーいうことにしといてよしっ。ただ、無理だけはするなよ。不幸な姿は見たくないからな」
ノブ………。
頷いたら、また。
大粒の涙が、頬を伝えずそのまま零れ落ちた。
「じゃ、悪いけど、電車の時間あるから………。衣理、またどっかで逢えたらいいな」
ノブは、アタシに笑顔で手を振りながらそのまま去って行った。
彼の姿が見えなくなり、戻された二つ折りのケータイをパカッと開く。
アドレス帳の【ま】行には、“村越敦裕”の情報が2件入っていた。
一つは、高校時代に教えてもらった時のケータイ番号とメアド、生年月日。
もう一つの方は、ノブの新しいケータイ番号、新しいメアド、生年月日。
そして、今住んでいると思われる蔵王の住所………。
「電話、かけることなんてあるのかな………?シンのコト考えたら、かけられないよね?」
ブツブツ自分に言い聞かせながら、登録された新しいノブのアドレスを頬杖ついて眺めてた。
アタシ………このままじゃ、ダメだね。
弱音ばっか吐いて。
シンのコトも、仕事のコトも、家族のコトも。
これからのコトも。
もっと、強くならなきゃいけない。
シンと逢う時間も大切にしなきゃいけないけど、その前にアタシ自身がもっと強くならなきゃいけない気がする。
アタシは、強く、なれるんだろうか………?
氷が溶けて薄くなって残っていたキャラメルマキアート飲み干す。
その時の右手の指は、ノブの古いアドレスだけを消去していた。