ページェント・イブ ~エリー My Love~【長編】
「今夜は貸し切りですから、ゆっくりして下さいね」
“稲葉くん”はキョロキョロと、きょどってたアタシに笑顔で話し掛けてきた。
「は、ハイ!」
稲葉くん…って、あたしより年上…だろうなあ。
27、8ぐらいかな?
だとしたら“くん”はないか。年上だったら。
ライトブラウン髪は軽くパーマかけて…。それをくしゅくしゅっとWaxで固めてる。
なかなかお洒落なコ。
何処の美容室で髪、やって貰ってるんだろ………。
あれなら手入れも難しくないし、アレンジしやすそうだし………。
あのコの髪、弄(いじ)りたい…。
「衣理ちゃん、稲葉くんの髪、弄りたいんでしょ?」
「えっ?」
店で話してからここに着くまで、ずっと会話もなしに来たんだケド。
ここに来て淳子さんが、アタシの方をチラッと見て、口を開いた。
「彼、いつもウチの店が休みの日に来るから、衣理ちゃん知らないのも無理ないわね」
“ココ座るね”と、淳子さんが二つあるボックス席のうち、奥のテーブルを指差し、その席へ回った。