ページェント・イブ ~エリー My Love~【長編】
「淳子さん、飲み物どうします?アルコールは………?」
稲葉さんから声が掛かる。
「じゃあ、あたしビール。衣理ちゃんは?」
タバコに火を点けながら訊いてくる淳子さん。
タバコを淳子さんの細い指に挟める。
それだけのその仕草と表情にドキッとした。
「いや…アタシは………」
一緒にココに来るように言われたのは、多分アタシはこれから、“最近仕事中ぼんやりうわの空”について、淳子さんに叱られるであろうコト………。
楽しく飲む状況ならまだしも、そうじゃないってのにアルコールは………飲めませんって。
「車じゃないよね?ま、例え車でも尊志(たかし)に送ってもらうし…ウチに泊まってもいいわねぇ。衣理ちゃん、ビール好きでしょ?稲葉くーん!ビール二つね」
「えっ?!」
「ハイ!了解です」
威勢のいい稲葉さんの返事。
それにしてもさっきのピリピリムードとは一転。
にこやか~にアタシを見る淳子さん。
読めない………。
あ、因みに“尊志さん”は淳子さんの旦那サマ。
仙台駅東口・榴岡(つつじがおか)で「Glowizm(グロウィズム)」という理容店のオーナー兼・社長。
淳子さん、怖い顔してアタシに話って言っておきながらもビールをオーダーするし………。
ZIPPOのオイルとセブンスター。
二つの独特の香りが複雑に絡み合いながら、アタシと淳子さんの間をグレーに燻らす。
「ところで衣理ちゃん。最近仕事に集中できていないようだけど、真(しん)ちゃんとウマくいってないんでしょう?」
「ゴホッ!!」
思わずタバコの煙を吸い込んでしまったのと、イキナリ核心を突かれたので思わず咽(む)せてしまった。
タバコを挟む右手で頬杖ついて、咳き込むアタシを直視する淳子さん。
その表情は、仕事に厳しい、オーナー「松尾淳子」の顔………だった。