ページェント・イブ ~エリー My Love~【長編】
“お待たせ致しました”と、稲葉さんがグラスビールを丁寧に、アタシと淳子さんの前に置いてくれた。
目の前にはしずる感たっぷりの琥珀色した黒ビール。
グラスの滴(しずく)といい、黒と泡の白の比率といい………そそる。
ビール好きなアタシとしては、いくら淳子さんから赦してもらったとは言え、この状況で一気飲みは………。
まるで、お預け喰らった犬のキブン。
思わず生唾ゴクリ。
琥珀色の向こうでは、淳子さんが最後の一服。タバコを灰皿に揉み消し、グラスを持つ。
「今日もお仕事お疲れ様。衣理ちゃんの仕切り直しに乾杯!」
「か、乾杯………お疲れ様デス…」
互いのグラスを合わせ、淳子さんは一気に、アタシはちびちびと飲む。
「………っあ~美味し~♪仕事の後のビールはいいねぇ………ほらっ衣理ちゃん、遠慮なく飲んでよっ!」
「は…ハイ………」
ボスの言うことを素直に聞いたと言うか、目の前のエサに釣られたと言うか………どっちにしても犬同然。
アタシは黒ビールを一気に飲み干してしまった………。
「ところで衣理ちゃん、真ちゃんと殆ど逢ってないんでしょ?」
キた。
早速、淳子さんに“核”を突かれた。