ページェント・イブ ~エリー My Love~【長編】


「単純かもしれないけど、お互い我慢せずに甘えることも必要なんじゃないかな?」


何も無かったように、ミントソルベをデザートスプーンの先に少しだけ掬い、口に運ぶ淳子さん。


「………ん?真ちゃんも衣理ちゃんも“鳩が豆鉄砲食らった”ような顔してぇ~?」


「あ………いや………甘える………ですか………」


シンがボソボソっと声を漏らす。



「真ちゃんは真ちゃんで、会議所の仕事のハードさと、中小企業診断士の資格とるための勉強で目一杯。それはわかる。だからなのか分からないけど衣理ちゃんの事は、ついつい“プロポーズもしたし、大丈夫”っていう安心感と、“女に甘えてはいけない”っていう男のプライドがあるからかもしれない。でもね、そこは真ちゃんがしっかりリードしてあげないと。衣理ちゃんはそんな真ちゃんをちゃんと知ってるから。“邪魔をしちゃいけない”って気持ちを常に持ってて、甘えたくても甘えられないでいるのかな…って思うのよね」


また、何事も無かったように淳子さんは、愛おしそうにミントソルベを味わう。

「ん~♪美味しかった~。あたしも家で作ってみようかしら?」

なんて言ってみたり。




「真ちゃん」


「あ………はい………」


上目遣いで、ジッ…とシンを見つめる淳子さん。
さっきとは全然違う表情に、またドキッとさせられる。
その表情は、妖艶なのに雌豹のような鋭さを感じる………。


異様な雰囲気が、店中に流れる。


ゴクッ………。

シンが生唾を飲み込む音。
すぐ隣にいるアタシまで聞こえる。こっちにまで緊張が伝わる。



ガタッ………

「衣理ちゃんを宜しくお願いします」

「………………」


立ち上がった淳子さんは、シンに向かって、深々と頭を下げる。


―――――シンもアタシも、声が出なかった。



「衣理ちゃんを幸せにしなかったら、ただじゃおかないから覚悟してよね、水嶋真一クン」


顔を上げ、にこやかにシンに微笑む淳子さん。

この女性(ひと)………スゴすぎ………。
思わず圧倒されてしまった………なんだかわからないけど、スゴすぎて言葉も出ない。



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