ページェント・イブ ~エリー My Love~【長編】
「―――お前に逢うだけで、こうして抱き締めるだけで気持ちが落ち着くの解っているのに………。何で俺、エリに逢うのを我慢しちまうんだろ………」
シン………。
「頭では解っているのに。すぐに逢いに行こうと思えば逢えるのに………何でなんだろ。エリは俺が仕事や勉強で忙しいってのを解っているから、逢いたくても、“逢いたい”って言えずに我慢してるってのに………バカだ、俺………」
アタシ自身も、すぐに逢いに行こうと思えば逢いに行けるのに。
シンのおかーさんとおばーちゃんから月に2回、水嶋家にてお茶と着付け習っているんだから、シンが帰ってくるまで待っていればいいんだケド。
ガマンしてるというか、遠慮してるというか………。
シンの家は規律がキチッとしてるから、まだ両家食事会程度でちゃんとした結納してないから、夕飯時まで長々といるのは失礼かなって。(食べていってとは言われるケド、ついつい遠慮して、シンが帰ってくる前に帰っちゃうんだよねぇ)
「………ゴメン、エリ………」
胸の奥の、奥の、ずっと奥で。
“好き”っていうあったかいキモチが、じわじわじわっと流れ出してくる。
逢えない時間が創り上げてきた、負のキモチ。
不安になるキモチ
せつなくなるキモチ
ガマンするキモチ
素直になれないキモチ
寂しくなって泣いたりしたって、全然よくなるどころか山になるばかり。
なのに
こうして
シンと逢って
コトバ交わして
触れ合うだけで
ただ、それだけで
負のキモチ全てが、帳消しになる―――――
「シンの夢………診断士になりたい夢が叶うまで、待つって約束したじゃん。アタシ………」
「このままじゃ、いつになるかわかんねぇんだぞ………?」
「待てるよ………」
アタシを抱きしめるシンの手にそっと触れてみる。
また、胸の芯にあった、あたたかいものが、じわじわっと溶けて、流れて、溢れてくる。