ページェント・イブ ~エリー My Love~【長編】
「シン?アタシ、今河原町駅に着いたトコ。少し早く着きすぎちゃったよ」
あ………。
思わず声色が上がる。
仕事終わったのかな?
ますますアタシの胸が高鳴る。
“―――――あ~エリ、ゴメン。今日、急な仕事入って遅くなりそうなんだ………”
えっ―――――!?
「―――――そう………仕事なんだ………」
そっか………。
試験終わっても、仕事は相変わらず忙しいのは解ってるケド………。
“あ、あ………ゴメン。この埋め合わせは近いうちにするから………今夜電話するから。ゴメン、ホントにゴメン”
「………わかった………シン、いつも仕事になるとアツくなってそれだけになっちゃうから、無理しちゃダメだよ」
“ん………そうする。心配かけて悪いな”
「ううん。いいよ……じゃあ今夜、電話待ってるね」
努めて明るく。
キモチ悟られないよう“アタシはヘイキ”感込めて話し、通話ボタンを切った。
「はぁ………っ」
深い溜息が出た。
地下鉄の壁に寄り掛かり、俯く。
爪先で、愉しそうに並ぶピンクのペディキュア。
前日、シンのおかーさんから浴衣の色柄を聞いていたから、それに合わせて萩色に塗っておいたペディキュア。
さっきまでは、この濃いピンクの萩色だったのに。
逢えないと解った途端、褪せて見える。
急な仕事で逢えないのは仕方ない。
仕方ないのは解ってる。
解ってる。
解ってるんだケド―――――
「あは。何かバカみたい………」
よくあるコトだし、結婚したらこんなコト日常茶飯事になるんだろうし。
仕方ないの………。
よしっ。折角、浴衣着たし、髪も整ってるし。
独りで行ってみようかな………灯ろう流し。
たまにはこういうのを独りで楽しむのもいいかもね。
アタシは、少し重い足取りで、広瀬川の灯ろう流し会場へ慣れない下駄を再び鳴らした。