ページェント・イブ ~エリー My Love~【長編】
「衣理に髪、やってもらうと、ツヤ、違うネ」
「そぉ?ありがとねゲレル。それにしてもアタシ、いつもゲレルに褒められてるけどさ、モンゴルだって腕のいい美容師はいっぱいいるんでしょ?」
「いるよ。ウランバートルに行けばいっぱいある。でも、私の街の【ウヴス】には腕いい美容師、いない」
「そっかぁ………」
「日本に来て、この美容室に出会えて、私、工学部の勉強辞めて、美容師になってもいいかな…って思う」
「でも、それはまずいんじゃないの?国のお金で留学してるんでしょ?」
「あ、ソウダッタ!!」
この美容室には、実は外国のお客様も多かったりする。
国立の東北大や宮城教育大(通称・宮教大)の留学生から私立大の学生をはじめ、仙台市または近郊で働く(あるいは在住)外国の方など、国は様々。
アタシが今、ブロウしているのは、東北大の工学部に通うモンゴル人留学生のゲレル。
ゲレルはアタシより5歳年上の28歳。
腰まであるロングストレートの髪。
はっきりいって、弄(いじ)ったら却って酷くなってしまうんじゃないかなって思うくらい、キレイな光り輝く、艶のある黒髪。
【ゲレル】って、モンゴル語で「光」って意味なんだって。
彼女はその名前にピッタリって感じ。
その場にいるだけで雰囲気を明るくしてくれる………。
モンゴルでは一般的な名前らしいけど、いい名前。
彼女に打って付けの名前って思ってるんだ。
ゲレルはたまにしか来ないんだけど。
来ては毎回、髪のアレンジ方法を聞いていく、かなり熱心なおしゃれさん。
首都・ウランバートルには結構、美容室があるみたいだけど、彼女の出身地【ウヴス】には、彼女が欲している美容室はないみたい。
それにしても、最初彼女と会ったトキは、モンゴル語なんて話せないからどうなるかと思ったけど、ゲレルの方が何枚も上手(うわて)。
日本語かなりペラペラなんだもんっ。
あ~、よかったぁ。