ページェント・イブ ~エリー My Love~【長編】


―――――高3の冬。

卒業式を翌日に控えていた日曜日の夜。


母と炬燵(こたつ)で二人。
対面に座り、あつあつのココアを啜りながらドラマを観ていた。


後のみんなは、珍しく全員就寝。



『木村拓哉………何やっても様になるわねぇ。いくら役柄では人気がない美容師ったって、実際にこんなイイ男がいたら絶対ナンバーワンだっちゃね』


そう論して、マグカップを両手で包むように持ち直し、ココアをゆっくりと啜る母。


ドラマは、木村拓哉演じる、腕はあるものの人気のない美容師と、難病に侵され、車椅子での生活を強いられながらも、明るく健気に生きる常盤貴子演じる図書館司書とのラブストーリー。


人気タレントと実力派女優。
B'zの主題歌もドラマと相まって、平均視聴率は30%超え。

アタシも母も、日曜夜9時はテレビに釘付けだった。



『―――――衣理も、美容師になるんだね』

アタシはそのトキ。
地元・仙台のヘアメイク専門学校に通いながら、M-Blowで働くコトが決まっていた。


『まだ先だけど』


頬杖ついて、テレビを眺めるアタシ。
木村拓哉のハサミ裁きに、未来の自分を重ねていた。


『お母さんは衣理に公務員になってもらいたかったな………』

溜息混じりに、持っていたカップを下ろす。



この台詞、今に始まったことではなかった。




< 648 / 755 >

この作品をシェア

pagetop