ページェント・イブ ~エリー My Love~【長編】
―――――高3の冬。
卒業式を翌日に控えていた日曜日の夜。
母と炬燵(こたつ)で二人。
対面に座り、あつあつのココアを啜りながらドラマを観ていた。
後のみんなは、珍しく全員就寝。
『木村拓哉………何やっても様になるわねぇ。いくら役柄では人気がない美容師ったって、実際にこんなイイ男がいたら絶対ナンバーワンだっちゃね』
そう論して、マグカップを両手で包むように持ち直し、ココアをゆっくりと啜る母。
ドラマは、木村拓哉演じる、腕はあるものの人気のない美容師と、難病に侵され、車椅子での生活を強いられながらも、明るく健気に生きる常盤貴子演じる図書館司書とのラブストーリー。
人気タレントと実力派女優。
B'zの主題歌もドラマと相まって、平均視聴率は30%超え。
アタシも母も、日曜夜9時はテレビに釘付けだった。
『―――――衣理も、美容師になるんだね』
アタシはそのトキ。
地元・仙台のヘアメイク専門学校に通いながら、M-Blowで働くコトが決まっていた。
『まだ先だけど』
頬杖ついて、テレビを眺めるアタシ。
木村拓哉のハサミ裁きに、未来の自分を重ねていた。
『お母さんは衣理に公務員になってもらいたかったな………』
溜息混じりに、持っていたカップを下ろす。
この台詞、今に始まったことではなかった。