ページェント・イブ ~エリー My Love~【長編】
目が合う。
母は少し寂しげな表情だった。
アタシは、思わず目を反らす。
いつもと違う台詞を呟いた母を、何故か真っ直ぐ見ていられなかった。
『もう、ウチの事は気にしなくていいから。あなたはあなたの夢を追いかけなさい……………子供の幸せを、親の思い通りに動かす事なんて出来やしないのにね………』
反らした目を、もう一度母へ戻す。
今にも泣きそうな母の瞳………。
でも、それを悟られたくないかのように、テレビに視界を移す。
『いや~ん♪やっぱ木村拓哉、かっこいい~!!ほらっ、衣理も早く美容師になって、こんな素敵な彼氏見つけてちょーだいっ♪カリスマ美容師って、モテるんでしょ?』
普段のミーハーぶりを発揮させた。
さっき言った、母の生真面目すぎるくらいの台詞が、まるでウソに思えるくらい。
親として弱い部分、見せたくなかったのかな?
『さあね』
アタシは冷たく言って、丁度コマーシャルに変わったのを機に、トイレへと部屋を出た。
ドアを後ろ手で閉め、アタシは思わず、声を殺して泣いた。
母はきっと、前からアタシに言いたかったのかもしれない。
でも、言うきっかけがなかった。
ただそれだけのコトだったんじゃないかなって。
母のキモチを思ったら、何故だか急に涙が溢れてきた。
ドアの向こうで、時を同じくして母が啜り泣きしていたのも知らずに………。
その日を境に、アタシの中の蟠(わだかま)りが。
サァーッと波が引いていくように、解けていった。
それっきり、母は何も言わなくなり、アタシの好きなようにさせてくれるようになった。